「読者への挑戦」系ミステリー【感想】夜想曲(ノクターン)
「読者への挑戦」という形の作品ということで手に取った作品。依井貴裕著、平成13年8月25日初版発行の角川文庫版。
概要
ある日、俳優・桜木のもとに差出人不明の原稿が送られてきた。
内容は、桜木自身も参加していた山荘での同窓会で起きた連続殺人事
件の真相を、小説チックに仕上げて告白するもの。
桜木自身には、山荘へ向かった覚えはあるものの、そこから数日間の記
憶が無くなっていた。
唯一、手に残る”首を締めた感触”を除いて。
第一夜の密室殺人。
第二夜の録音された殺人。
第三夜の毒殺。
嫌な感覚を覚えながらも読む手を止められない桜木。
そして小説の解決編、そこには桜木が連続殺人事件の犯人であるとの
告発が待っていた。
完ぺきな状況証拠と、そこから導かれる完ぺきな論理的結末。
記憶にはないものの、手に残る感触が桜木を混乱へと陥れる。
果たして自分は殺人を犯したのか。 その混乱が新たな殺人事件を引き起こす。
私的評価
58点。
もう少し頑張りましょう。 「読者への挑戦」 タイプの作品には、大当たりが少ない気がする。それでも手にしてしまうのだが。。
感想
挑戦状を読んでいる最中に違和感を覚え、「さぁ、挑戦状です」という文言を目にした頃には「こういうトリック以外にあるのか?」という気持ちになっている。
トリックが分かった時点で、「なら真犯人は?」「真相は?」といった部分は考察することなく読み進めてしまった。
どうも「トリックはこうだから、真犯人は…」などと前のページを振り返って考える気にはなれない。
秀逸なトリック・目を見張るトリックなんてものではない上に、物語自体も惹きつけるものがないので興味を失ってしまう。
緻密な計算が必要なトリックなので「苦労したやろなぁ」とは思うものの、面白かったとは言えません。
しかも、本当の真相では「それは無しやろ…」と思わず口にしてしまう。
トリックとは殆ど関係のない、原稿が送られてきたことに対する真相の場面です。
確かに、物語を成立させるためには仕方がない結末かもしれないが、トリックの緻密さと比べると「何故、最後がこの程度で終わるのか…」とがっかりさせられる。
作品とタイトルの因果関係というか、なぜこのタイトル?といった感じも否めない。
夜想曲(ノクターン)=夢想するような趣の旋律を持つ、ピアノのための小曲。静かな夜の気分をあらわす抒情的なもの。
そんな抒情的な雰囲気は感じられなかった。
読後にタイトルを振り返って納得感の薄い作品は、どうしても評価が低くなってしまう。 この作品が依井氏の代表作といった訳ではなさそうなので、他の作品も読んでみようかとは思うものの、あまり期待しないようにします。