ポプラ小説大賞を終わらせた?【感想】『KAGEROU』

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言わずと知れた、俳優:水嶋ヒロの処女作にして、第5回ポプラ社小説大賞受賞作。齋藤智裕名義。発売から廉価で古本屋に並ぶまでの時間が、「ホームレス中学生並み」に早かった作品。

概要

借金にまみれ職もなく、死ぬ決意を固めた40歳の男。

人気のない深夜、廃デパートの屋上で最期の時を迎えようとしていた。

フェンスを乗り越えようと金網に手を掛けたその時、全身黒づくめのスーツを着た男がそっと声を掛ける。

自殺を止めようとする訳ではないその男の言葉に、半信半疑ながらも何故か耳を傾けてしまう。 そして二人は、決して公には出来ない秘密の契約を交わす…

私的評価

59点。

自分の読書力の無さが原因なのか、サラっと流れて終わってしまった。毎度のことながら、帯の宣伝文句には疑問が残る。リアクションに困る程、内容自体には何の感慨もない。

感想

どうでもいい相手から、何の興味も必要性もない報告を受けた時と同じ。

「ふ~ん。で?」で終わり。

何やら書きた事、伝えたい事のニュアンスは分かる気がするものの、モザイク越し、すりガラス越しにしか見えない。

この「書きたい事・伝えたい事」だけを汲み出し、濾過して結晶にすれば、

”「人を人たらしめているものは何か」「いのちとは」という問いを刺激的な物語設定の中で意欲的に描き出している。”

というポプラ社のHPに掲載されている講評にも、首肯出来なくもないが…

同講評中に掲載された授賞理由。

「挑もうとしているテーマがもっとも大きく、それをエンターテインメント作品として仕上げている(中略)一部やや冗漫になるところや時折見られる表現上のディテールの不足が指摘されたが、作品自体の魅力と書き手としての可能性が上回るとして受賞が決まった。」

新人賞での受賞理由ならいい。

新人賞の側面があることも承知している。

でも、この回までは新人賞ではない以上、これが理由ではいかんでしょ。

百歩譲っても「奨励賞」のような位置づけにしかならない授賞理由。

候補作中、挑もうとしているテーマがもっとも大きい?

テーマを理由にされては、選考基準に疑問を抱かざるを得ない。

「人一人の命は、地球よりも重い」などと首相や最高裁の裁判官ですら公言する国。

大きさで言えば「命」を超えるテーマなんて今の日本にはない。

テーマの大きさを競う文学賞だったのでしょうか。

「イメージの悪化から終了」とウィキに書かれるのも納得。

自分はもう、このポプラ社の文学賞を受賞した作品を、その受賞を理由に手にとることはないでしょう。

作品自体は悪くないのに、この賞を受賞したことが仇になってしまう講評。

著者が哀れ。

話を著作の読書感想へ戻すと、著者自身も納得していない作品の様な印象を受ける。

もっとクリアに、もっと深く、ストレートに伝えたかったのではないか。

ニュアンスは伝わるだけに、どこかもどかしい。

踵が痒くて掻いてみても、表面を引っ掻くだけで痒みの元に届かない。

そんな印象を受けるし、著者にもそんな感覚を持っていて欲しい。

テーマがテーマなだけに、インパクトが弱くて軽すぎる印象も拭えない。

結果、先に記した様な「ふ~ん」ぐらいの感想しか持てない。

そして、やはり賞を受賞する様な作品には思えない。

帯などの宣伝文句に読み方を強要されて、先入観を持った上で読了しないとそれ以上の感想にはならない。

全て含めて、好きにはなれない作品でした。

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