思ったより良い!!【感想】一瞬の風になれ

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佐藤多佳子著。第28回吉川英治文学新人賞及び2007年本屋大賞受賞作。ラジオドラマ化、テレビドラマ化、漫画化もされている有名作。三部作だとは思わず、第一部の「1」の表記も「イチニツイテ」と読ませるだけの、タイトルの一部だと思ってました。手にしたのは講談社の「第一部(イチニツイテ)2006/12/7第5刷発行」「第二部(ヨウイ)2007/5/24第10刷発行」「第三部(ドン)2007/4/3第7刷発行」。

あらすじ

サッカー狂一家に生まれ、自身もサッカー漬けの毎日を送る新二。

類い稀なる才能を持ち合わせた兄・健一と比べ、どんなに努力をしても一皮剥けない自分に嫌気がさし、家族の反対を押し切って高校入学と同時にサッカーを辞める決意をする。

一方で、スプリンターとして全国大会の決勝にまで駒を進める実力がありながら、「部活は性に合わない」といって走ることを辞めた幼馴染・連。

スポーツテストで50m走を同走した二人は、2人で走ることの快感を認識し、そろって陸上部へ入部することを決める。

しかし、部活として走ることで徐々に広がる2人の距離。

様々なトラブルを抱えながら無情に流れる時間。

そしてプロのサッカー選手となった兄・健一の怪我を機に、新二は走る意欲をなくし、部活から足が遠のく。

そんな折に連から掛けられた一言。

「俺さ、おまえとかけっこしたくて、この部に入ったんだよ」 この一言を切っ掛けに、再び2人の青春が走り出す。

私的評価

73点。

2つ受賞が無ければ決して手にすることなかったであろう作品。気分が重かったので、いつもなら避ける様な、軽すぎる薄っぺらい作品が読みたかった。

感想

思った通りの軽い雰囲気だったので、集中を欠きながらも一気に完走。

携帯小説に毛が生えた程度の雰囲気を感じながら我慢と共に第一部を読み進め、惰性で第二部を通過したにも関わらず、第三部のクライマックスでは、淡い感動をさせられる。

物足りなく感じていた描写も、「最後のこの雰囲気を出す為の布石になっていたのか」と感心しました。

無駄に長く思えるクライマックスまでの道のりも、読後に振り返ってみると悪くない。

この手の作品に、自分が「良い」と思うなんて想定外。

静かでありながら熱い気持ち。

感じるか感じないか、分からない程度の風。

一切の音を許さず、白く淡い光の中に伸びる一本の道。

そんな景色・視界が脳内で綺麗に映像化される。

青春小説を読むときに期待する「淡さ」。

これまではこの「淡さ」を、気持ちの面にのみ求めていたが、初めて、「情景」に対する淡さの価値を認識した。

「思ったよりいいよ」

人に感想を聞かれれば、そう答えるような作品。

映像化、漫画化がされているようだが、そちらの方は手にしない予定。 せっかく浮かび上がった素晴らしい情景が、汚されてしまってはもったいない。

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