HNKがドラマ化しているようだが、観たくない。【感想】小暮写真館

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作品数が多すぎる上に、その幅がSFから時代物まで多岐に渡り過ぎていて、手を出すのが躊躇われる作家の代表・宮部みゆき。本作も700ページ以上、厚さ4cm以上ある大作。本書がミステリーだと知り、手にした一冊。宮部みゆき著、講談社2010/5/15第1刷発行。

概要

酔狂な親が選んだマイホームは、人通りの絶えた商店街の中にある元写真館の店舗兼住宅。

店構えだけでなく、年季の入った看板を掲げたままの新居。

そして、幽霊が出ると近所でも噂の新居。

明りのついている店を見て、まだ営業していると勘違いした女の子が一枚の写真を持ち込む。

その写真には「写るハズのないもの」が写っていた。

押しつけられたその写真の真実を知るために、

写真に込められた真意を読みとるために、

にわか探偵と化した花ちゃんこと花菱が動き出す。

そして出会った様々な人と、気付かされた想い。

その人や想いが、花ちゃん自身の心をそっと押し開ける。

私的評価

80点。

宮部みゆき氏の作品を本で読んだのは「火車」や「我らが隣人の犯罪」ぐらい。「模倣犯」「理由」「ブレイブ・ストーリー」は映画版をテレビで見ただけ。あとはアンソロジーものに収録されている作品をちょろちょろと目にする程度。面白いことは分かっていながら、なかなか手を出さない人も多いハズ。読むとやっぱり面白い。

感想

連作中編集。

一面の菜の花畑に、桜と、ローカルな電車、そして青空。

そんな爽やかな装丁のせいでミステリーとは思わず、純文学に近い作品だと勝手に判断して放置していた作品。

率直な感想は、「やっぱ上手いなぁ」というもの。

テンポやリズム、表現がこれ以上ないぐらいハマっている。

「間」がいい上に「突っ込み」が端的で的を射ている。

10文字程度の短い表現でグッとその段落を締め、そのテンドンが小気味いいテンポを生み、最後できっちり落とす。

加えて、痒いところに手が届く表現や例え。

普段は滅多に思いださないようなことにも関わらず、誰もが近しい経験をして、似たような感慨を受けた覚えがあるもの。

そのチョイスに感嘆させられる。

そしてノスタルジックな気分にもなる。

恩田陸作品の読後感に似ているようだが、やはり違う。

恩田氏の作品の場合は雰囲気・空気に「包まれる」、若しくは内側からじんわり「広がる」ものなのに対し、本書の場合は、ポイントポイントでグッと「引き寄せられる」感じ。

この違いをこれ以上説明する語彙力を持っていないので、是非、どちらも読んでみて欲しい。

内容としては、確かにミステリー要素はあるものの人間ドラマが主眼。

それぞれが抱えた想いを、それを捉えた写真から読み解き、解放する。

そのうち、自らの抱えた想いまでもが感化され、解放される。

簡単に言うなら、そういうお話の青春小説。

一般的でありながら深く、それを深く見せないけれど無意識に深く刻み込まれる。

幼い娘を亡くした母親、それをとりまく親戚の目と声、必死でその母親を守ろうとする父、そんな親を見てるしかない息子、幼すぎて当時の記憶がない弟。

加えて、笑顔を失った様な影のある女性、その女性を支える社長夫妻。

その容姿から苛められた過去のある同級生、その同級生に恋をする友人。

そして唯一無二の親友。

それぞれの表と裏。

各々が抱えているものは決して軽くなく、ともすれば潰れてしまいそうな重さでしょう。

それを暗黙の了解で支え合う家族と、適切な距離感で手を差し伸べる仲間。

「えぇもん見たなぁ」

そんな読後感の一冊。

惹かれあう二人→片方が病気になる→立ちふさがる壁→強い思いだけで乗り切る→ちょっとしたサプライズ演出→なんとなく落ち着く→結局死ぬ→でも思い続ける、 みたいな害悪。

女優・俳優のプロモーション以外のなんの意味も持たない邦画を観るぐらいなら、本書を読むほうがよっぽど「えぇもん」観れますよ。

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