【レビュー】著者の嫌らしさを垣間見る『婚活島戦記』

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「このミス大賞」シリーズは目にすれば入手するようにしています。本作は第11回「このミステリーがすごい!」大賞の最終候補作。手にしたのは文庫版、2013年8月13日発行の第一刷。大賞受賞作ではないし、「こんなもんかな」と。

あらすじ

IT企業の最高責任者、史上最年少で世界長者番付に載る時代の寵児が、雑誌や新聞各紙で大体的にキャンペーンを張った。

<結婚相手を探しています。貴女こそが僕のシンデレラかもしれない。永遠の富と名声と幸福を貴女に>

本文P16より

学歴・経歴・年齢は不問

この呼びかけに応じ、3分の自己PR動画から面接、2泊3日の健康診断を経て厳選された40余名の女性が孤島へと集められた。

マスコミを完全にシャットアウトして実施される4泊5日のお見合いツアー。

そこで告げられたお見合いの内容は、知力・体力・推理力、そして運が試されるサバイバルゲームだった。

<私的評価>

65点

このシリーズは、最初期の作品を除けばどれも可もなく不可もなし。本作もその例に漏れず。

<感想>

平たく言うと、「殺し合い」が「蹴落とし合い」になった「バトル・ロワイアル」の婚活版。

読んだ誰もがそう思うはず。

ゲーム開始時の人数が1クラス分だったり、装飾品で主催者から管理されてたり。

もちろん、徐々に活動可能エリアが狭まるわけではなく、リタイアも認められているなど設定は異なる。

最も大きな違いは、主人公をはじめ最終バトルに残るメンツの背景が長々と語られること。

ゲーム性ではなく、きちんとした物語で勝負しようという姿勢。

そのおかげで“同人作品”から脱却出来ている印象がある。

さらに、オチのひとつ、主人公・甘柿の相棒役となるミチカの役割は「クリムゾンの迷宮」のラストを思い起こさせる。

あらゆる創作物は、すでにあるものの組み合わせや換骨奪胎であることは百も承知 。

ただ、表面をなぞるような読み方しか出来ない自分でも「これとこれを繋げたな」と元ネタ(類似ネタ)が明確に分かってしまう。

まぁ、殊この作品に関しては、先行作品との相似の指摘は誰もがすることなので、これ以上は割愛。

「女性たちが、騙し騙されながら玉の輿を目指して争う物語」

「格闘マシーンだった女性が、人間らしい感情を手に入れていく物語」

「アングラの世界でしか生きる術を持たなかった女性が、一般人の夢見るような幸せを手に入れようとする物語」

と色々な表現が出来るが、内容を端的に表現するとすれば、

「婚活に必死な女性を男性はこう見ているんだろうな」と女性が語る物語。

例えば、残った4人がミラーハウスに入れられてペイント弾で争う最後の戦い。

もともと精神に異常を抱えたのが2人

恵まれすぎた環境による性格破綻者が1人

学習障害ゆえ、一般的な生活を送るのが困難な主人公

つまり、「極限状態で徐々に気が狂う」のではなく、最初から狂った人間ばかり。

最終戦に残れなかった女性陣も同様である。

玉の輿を死に物狂いで狙う女性の異常性を揶揄し、かつ、本気で婚活をしないと結婚できない女性は、どこか内面or育ちに大きな問題を抱えているということを明示している。

最終戦の場面では、すでに結婚を目的としているのは主人公のみだという点もその傍証。

玉の輿を夢見ること自体がそうなのではあるが、女性の歪んだ自己顕示欲の醜さをエンターテイメント化したらこうなったと。

そして「女はもういい。結婚したがってるやつの気が知れない」というセリフで男性側の気持ちをまとめている。

ここで面白いのが、作者は、子育てをしながら2人目を妊娠中にこの作品を執筆したということ。

勝手な推測だが、子育て・妊娠・執筆を同時にこなせる作者は、専業主婦なのではないかと。

作者が専業主婦なのか否かや旦那の人物像、結婚に至る経緯は知る由も無いが、20代女性の3人に1人以上が専業主婦になりたい(博報堂生活総合研究所調査)と願っている今、“勝ち抜けた”人物がこのテーマで作品を書いたのは、分かりやすい皮肉が効いていて良い。

それを、女性視点の物語でありながら「男性から見たらこうやろうな」っぽく書くズルさ、そしてそれがあまり成功していない雰囲気も含めて楽しむ作品。

この楽しみ方には、巻末にある「このミス」大賞選考委員の大森望氏による解説が不可欠である。

大森氏は「背景設定やストーリーは、正直、どうでもいい」と言い切る。

その後に続く「本書の最大の魅力は(中略)ヒロイン、二毛作甘柿の造形にある」という言葉には首肯しかねるが、本当に色々と「どうでもいい」。

本書の最大の魅力は、結婚し、世間一般に幸せ(であろう)と思われる生活を手にした女性作家が垣間見せる「上から目線」や「闇」である。

良いように深読みすれば、「私も同じ醜い女性の1人。そんな私と結婚してくれてありがとう」という旦那への感謝と言えなくもないが。

いずれにせよ、解説まで含めて1つの作品として読まないと、特に印象に残らず素通りしていくタイプの作品でした。

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