中学生にとっては良い作品なのか?【感想】だいじな本のみつけ方
自分の思う大崎梢らしい“本にまつわるミステリー”とは、似ても似つかぬ作品。これを「中学生向けなんやからええやん」と言える人とは気が合わない。表題作と、書き下ろし1編収録。大崎梢著、平成27年4月20日初版1刷発行。光文社文庫。
概 要
「だいじな本のみつけ方」
とある中学校の放課後、廊下にある手洗い場の隅にぽつんと置かれた一冊の文庫本。
それを発見した自他共認める読書好きの主人公「野々香」は、好奇心を抑えられなかった。
もとより、人気の無い放課後。
それでも左右を見渡して人がいないことを確認して、素早くその本に手を伸ばす。
何の本かな?
見慣れた書店のカバーを捲ったその先には、始めて見るイラストが。
『うそっ』
それは野々香が今一番気に入っている作家の新刊だった。
これまでに発表された作品は全て読了済み。
新刊も楽しみにしていたのだが、すでに発売されているとは知らなかった。
『私もゲットしなきゃ』
慌てて本を元の位置に戻し、通学路を少し外れたところにある馴染みの書店へと足早に向かう。
しかし、一目散にたどり着いた文庫の新刊コーナーには、お目当ての本が並んでいなかった。
気合いを入れて徹底的に探すも見つからない。
聞けば、発売は来週の予定。
どの書店でも先行発売は実施していないという。
『じゃあ、あの本はいつ、誰が、どうやって手に入れたんだろう…』
「だいじな未来のみつけ方」
野々香も通った地元小学校の校長から、1通の依頼が寄せられる。
『本をメインに据えた、小学生と中学生との交流が何か出来ないだろうか』
それも中学生が小学生を指導するような形ではなく、一緒に楽しめるものを。
読書会なんて普通なことはしたくない。
頭を悩ませる野々香たち。
そんなとき、幼い頃に公民館で催されていた読み聞かせのことを思い出す。
魔法のような読み聞かせをしてくれたビトさん。
ヒトさんは今、どうしているのだろう。
まだ、読み聞かせをしているのだろうか。
気になって公民館を訪ねてみると、
『もうずっと、ここには来てないの』
まだまだ元気で引っ越しもしていない。
でも、ある事件をきっかけに、公民館からの依頼を断るようになり、もう何年も来ていないという。
その事件とは、一体どんなものなのか。
小中交流イベントのことが気になりがらも、どうしても知りたい事件の真相。
そして、事件がイベントと結びついたとき、中学生がまた一歩、大人へと近づく。
私的評価
61点
・中学生が、本や書店、図書館等を通して大人の世界にタッチする物語。
・主人公が、表面をだけ見て判断するのではなく、その背景へと考えを巡らせることが出来るようになるまでの成長物語。
・「大人の想定した中学生読者」を気持ち悪く感じる物語。
感 想
文字が大きくて行間が広いスカスカのページ。
初出を見ると、表題作は「朝日中学生ウイークリー」に連載されていたものとのこと。
こちらにも、買う前に初出を確認しなかった落ち度があるとはいえ、完全に騙された気分。
中学生向けだと分かる装丁なり何なりにしておいて欲しかった。
正直、中学生ともなれば、エンターテイメント作品に限れば大人と同じもので良いのではないかと思う。
子供向け作品をバカにするつもりは毛頭ない。
しかし、「子供向け作品とは、こういうもの」という大人目線の作品は総じていただけない。
特に中学生をメインターゲットにしている作品は、「ちょっと背伸びさせてあげている感」が往々にしていただけないので好きになれない。
そして、本書もその例に漏れない。
憧れの作家が実は近所に住んでいて、しかも同級生の親戚。
“白馬に乗った王子様が、冴えない私を~”と同レベルの展開と設定。
「都合良すぎる」とは言わないが、「夢を見すぎ」とは言いたくなる。
フィクションの域を出て、おとぎ話の世界。
小学生向け少女漫画を、そのまま文字列にしたような印象。
点描ほわほわで、頭の中がお花畑。
これが「子供騙し感」を強くしているし、物語の前提として機能しているので、結果、全体をチープなものにしている。
その境目は曖昧なものの、確実に存在する「子供の世界のコンテンツ」と「大人の世界のコンテンツ」との違い。
まさに中学生レベルがターゲットになるであろう、その狭間にあるコンテンツは、あくまでも実際の中学生がターゲットなのではなく、「大人の考える理想の中学生像」がターゲットとなる。
ある意味で仕方のないことではあろうし、大多数は面白く仕上がっている。
しかし、中には大滑りしていることに気がついていないドヤ顔の作品も少なくない。
これが自分には非常に気持ち悪い。
「手加減してやってるぞ」臭がして、簡単な文章にも関わらず読むのが苦痛となる。
こうした内容の気持ち悪さもさることながら、一般の文庫と同じ顔をして本棚に並んでいることもいただけない。
子供向けコンテンツに毛を生やしたところで、それは「大人から子供まで楽しめる良質なコンテンツ」ではなく、ただの「毛むくじゃらの子供」に過ぎないことを自覚し、せめて、児童文学として出版するなり、中高生向けレーベルから出版するなりして、「この作品は中学生向けに大人が適当に考えたものです」と宣言しておいて欲しい。
大崎梢×光文社文庫の作品には、以後、気をつけて望まねばなるまい。