コレクション癖に理解があれば楽しめる【感想】古本屋探偵登場

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国外の作品に古本屋が探偵となる作品があるのは知っているものの、訳書となると一気に興味が削がれてしまう。一方で、近年の国内作品で古書店が舞台となるものは、ライトノベル風味が強すぎて何か違う。そんな人にピッタリの紀田順一郎氏による古書ミステリー。文春文庫、1985/9/25 第1刷。

概要

稀本・珍本の収集家が手に入れた一冊の本。

それは世に存在するか否かも判然としない幻の本だった。

市場価値にして数百万円。

古書マニア・蔵書家・愛書家、いわゆる書痴(ビブリオマニア)と呼ばれる人間にとっては喉から手が出るほど入手したく、一目でいいから拝見したい一冊。

家に置いておくのは不安、かといって銀行の貸金庫に入れてしまっては死蔵となる。

そこで図書館に「寄託」し、安全な場所へ保管したハズだった。

しかしその本は、いとも簡単に他の屑本へとすり替えられてしまった。

本をすり替えた犯人は?そして本の行方は?

私的評価

75点。

ミステリーや物語としてはどこか弱い。でも地に足のついた古書・古書店の物語としては充分楽しめる。アニメ・漫画的なキャラクターの魅力に頼らないのが良い。

感想

ミステリーとして読んだ場合、「そんなんでええんかよ!」となるぐらいトリックがチープ。

ひと捻りしているようだが、大して感心・感動は出来ず納得のいくものではない。

ミステリー作品としては落第ギリギリでしょう。

しかし、本作の魅力はトリックや作品の流れよりも書痴の描写。

古本屋の内部ではなく、そこに出入りする人間の描写が細かく、リアリティーに溢れている。

古い作品なので今の時代には合わないし、業界に興味のない人には読み進めるのが辛いだろう。

ミステリー好きが、ミステリーとして読んでも評価が低くなるの致し方ない。

本書は短編集ではないものの、2つの話が収録されている。

上記はその一つ。

もう一遍は、ミステリーではなくホラ―な雰囲気。

タイトルも「書鬼」

書痴の行きつく先と、泥臭い人間模様が描かれている。

こちらも、書痴の生態に興味を持てなければ最後まで読めないかもしれない作品。

しかし、いずれにしても、古本業に興味がなくとも抽象度を上げてコレクション癖や“かつての”オタク心理を描いた作品として読めれば満足が行くはず。

これも「読む人を選ぶ作品」ということになろうか。

「読書はもちろん、目的がなくても古書街を散策するのが好き」

そんな人に手にとってみて欲しい。

最後に、タイトルについて。

本作は昭和57年に三一書房刊の「幻書辞典」を改題して文春文庫から出されたもの。

改題しない方が良かった。

特に「幻書」の言葉は残しておいた方が、作品のタイトルとしては適切だったであろう。


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