いつの時代も厄介なのか【感想】フェミニズム殺人事件

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日本SFの巨匠、筒井康隆の描くミステリー。「ロートレック荘事件」が非常に印象的だったので、期待して手にした一冊。集英社、1989/10/20第1刷発行。

概要

南紀・産浜の会員制高級リゾートホテル。

そこに集まった6人の宿泊客。

6年前に集まった際の言い知れぬ満足感に想いを馳せながら、ゆったりと流れる贅沢な時間に身も心も満たされる。

そんな中、宿泊客の一人、地元の名士が殺害される。

徹底的に施錠されたホテル内。

外部犯行説に希望を見出しながらも、内部の人間に対する疑心を隠せなくなる。

そして第二の殺人が・・・

再び起きた密室内の殺人。

しかも、ホテルと部屋の二重密室。

第一の事件の被害者に対する黒い噂と、第二の事件の被害者に対する奇妙な噂。

それぞれの噂を追ううちに第三の殺人まで・・・

密室のトリックとは?

そして犯人は?

私的評価

70点。

筒井康隆らしい様々な揶揄に溢れた作品。でも、筒井作品としては平均点かと。

感想

ミステリーとしては・・・作中でも触れられているように”お粗末”の一言に尽きる。

ただ、筒井氏の作品であることを念頭に置けば、意図して描かれた”お粗末さ”であり、本格ミステリというものに対する皮肉なのでしょう。

「~殺人事件」などと如何にも本格の雰囲気を漂わせながら、

二重密室連続殺人などと如何にも本格の要素と取り入れながら、

その実、「現実に近付ければこの程度のもん」といった空気を感じる。

本書が刊行された1980年代後半から90年代にかけては、ちょうど新本格派が台頭してきた頃であり、その流れに「いっちょかみ」した作品の1つ。

「書きたい!」というより、「書いてみた」という感覚で生み出されたのでしょう。

それはそれで筒井氏らしい。

もう1つのテーマは、言わずもがな、タイトルが示す通り「フェミニズム」。

宿泊客がフェミニズムに関する議論を交わすシーンが、特に前半に多くみられ、結末での表現への伏線となっている。

フェミニズムの持つ可能性や矛盾といったものを、登場人物の口を借りて述べられているものの・・・

上辺しか理解出来ませんでした。

筒井氏の作品は、どれも一定レベル以上の教養を求められる。

その教養がなければ、面白さは半減する。

本書もその例にもれず、自分の地頭の限界を感じさせる作品。

とはいえ、「分かりそうで分からない」ギリギリのラインを攻めてくるので“面白い”と感じてしまう。

最近の作品には、そういうの少ないよね。


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