感動はない。感心はする。【感想】『イニシエーション・ラブ』
『「必ず2回読みたくなる」と絶賛された傑作ミステリー。』という触れ込みに我慢できなくて買った一冊。映画化もされています。細かな伏線も見逃すまいと決めて読んだにも関わらず見事に再読させられた。乾くるみ著、文春文庫2008/3/1_15版。
概要
内定も獲得し、気楽に迎えた大学4回生の夏。
人数合わせに呼ばれた合コンの席。
僕は、生まれて初めて一目ぼれをした。
理性的に生きてきたと自認していた僕は、この恋心を抑えることが出来なかった。
やがて思いは実り、夢の様な時間が流れ始める。
2人の愛は本物で、酸いも甘いも2人ならどうにでも出来る。
「絶対」に離さない。
絵に描いた様な青春のひと時。
2人でいれば、この幸せな時間は永遠に続く、と疑わなかった。
最後の2行を読むまでは…
私的評価
75点
物語は面白いし、2回読む気持ちも分かる。でも、乾氏の他の作品を読みたいとは思わない。
感想
「自分は何を読んでいたのか…」と、自らの読書力の低さをまざまざと見せつけられた作品。
本の紹介文に「ミステリー」の文字が無ければ、もっと感動的に騙されたと思います。
キチンを読めていれば、恐らく騙されない。
でも途中でチンプンカンプンになり、どうして「必ず2回読みたくなるのか」を探して、結局2回目を読んでしまうような作品です。
物語は至って普通の青春モノ。
細かい描写や空気感は、正直、作品にのめり込ませる程のものではない。
繊細さというか、ちょっとした軽さが足りない文章です。
読みやすくはあるものの、全体的に分厚く、固い印象が拭えない。
でも、だからこそ、読み飛ばしてしまったり、都合のいい展開を頭で描いてしまったりするのでしょう。
どう書けば読者が勝手な解釈・勘違いをしてくれるのか。
それを計算した上で書かれている。
もう少し青春描写が秀逸であれば…と少し残念でもあるが、十分満足させてくれる作品。
感動はないが、感心させられる作品です。
余計な心配だが、乾氏にこの作品を超える作品を書けるのだろうか、という思いが拭えない。
あまりにも完ぺきな作品を初期に書いてしまい後の作品が一向に面白く感じられない作家に、多くの人が思い当たるはず。
乾氏は果たしてどうなんでしょうか。
良い印象のままでいるためにも、他の作品は読まないかな。